登山についての運動生理学的見地からの情報

はじめに

登山については、さまざまなノウハウ情報を、書籍やネットなどで得る事が出来ます。その中には、運動生理学の見地からのものも多数あり、大変参考になります。
そこで、それら情報の中で、特に登山を始められたばかりの方が知っておいたら、ご自分の登山スタイルを考える上で良いのでは思われる情報をまとめてみました。世の中に多数あるノウハウ情報を、どのように生かすか考える際の参考になりましたら・・・。 (ちなみに、ダイエットはどのようにしたら良いか考える際の参考にもなりますよ。)

なお、このサイトの内容は、以下の文献を参考に作成しています。さらに詳しい内容や、正確な内容につきましては、それぞれの文献を参照下さい。

【参考文献】
・山に登る前に読む本 能勢博著 講談社 ブルーバックス
・登山の運動生理学百科 山本正嘉著 東京新聞出版局
・乳酸を使いこなすランニング 八田秀雄著 大修館書店
・物理のアタマで考えよう! ジョー・ヘルマンス著 村岡勝則:訳、解説 講談社 ブルーバックス

1. 筋肉内でのエネルギーの発生メカニズム

登山とは直接関係ない話ですが、後の話を理解しやすくなると思いますので、基本的な情報として、まず筋肉を動かすエネルギーであるATPの、筋肉内での発生メカニズムについて説明します。

 

筋肉を動かすエネルギーは、ATP(アデノシン三リン酸)の形で供給されます。ATPを作る原料は、主に糖(グルコース、グリコーゲン)と脂肪です。
ATP産出の系統には、以下のものがあります。それぞれ、産出に利用できる材料、産出が行われる時の運動強度、産出のスピードや継続時間に特徴があります。

①クリアチンリン酸系でのATP産出
ATPは筋肉内でクレアチン酸として蓄えられています。激しい運動をした時は、まずここからATPが供給されますが、この系統でのエネルギー供給は、数秒~数十秒しか続きません。

②糖の前処理(解糖系)でのATP産出
糖は分子構造が小さく、水に溶け反応がさせやすく、すぐに分解できる特徴があります。その為、強度の強い運動のようにたくさんのATPを短時間で生み出す必要がある時は、解糖系で糖を分解する反応がすぐにたくさん進みます。この反応で酸素を使わずにATPが作られます。一般的に言われている「無酸素運動」でのATP産出がこれになります。ただ、この時もミトコンドリアで酸素を使ったATP産出は行われていますので、厳密には、「無酸素運動」では無いことになります。
ここでできたピルビン酸は、ミトコンドリアでATPを作る材料になります。
なお、強度の強い運動では、ピルビン酸がミトコンドリアで使われるスピードは、ピルビン酸が作られるスピードより遅い為、余ったピルビン酸が乳酸になります。
乳酸は、一般的に疲労物質と言われていますが、ミトコンドリアでATP産出に使われるエネルギー源にもなっています。

③好気的代謝系でのATP産出
ミトコンドリアで、糖(ピルビン酸)や脂肪を材料に、酸素を使ってATPが作られます。なお、脂肪は分子構造が大きく、水に溶けず、糖に比べると、ATP産出に複雑な過程が必要で、利用に手間がかかります。



次に各系統でのエネルギー供給量とその継続時間を説明します。右図を参照下さい。

【クレアチン酸系】
供給速度が速く、1分以内に供給が開始されます。激しい運動の時に最初に使われる系です。

【解糖系】
クレアチンリン酸系でのATPが使い果たされた時に即座に補給が開始されます。素早い動作など、運動開始時や激しい運動強度の時のエネルギー供給源です。筋肉内に蓄えられているグリコーゲンの成分であるブドウ糖から、酸素の消費なしにATPが産出されます。同時に乳酸も産出されます。最大筋力での解糖系によるエネルギー供給は30~40秒が限度です。効率が悪いグリコーゲンの消費になります。

【好気的代謝系】
主にグリコーゲンと脂肪がエネルギー源となります。この系は、エネルギー源が枯渇せず、酸素の供給が続く限り、無制限に継続できます。但し、ATPの産出速度は解糖系と比べ40%程度と低く、高いパワーを必要とする筋収縮には向きません。また、酸素を必要とする為、筋肉内のこの機能をフルに活用するには高い心肺機能が要求されます。

[注]
右の図は、激しい運動時のエネルギー供給系統とその持続時間を示しています。普通の運動時に、時間経過とともにエネルギー源が変わって行くのではありません。



右の図は、運動に必要なエネルギーの供給源が、運動強度によってどの様に変わるかを模式的に示した図です。
安静時には糖:脂肪=1:2位で、脂肪の方が良く使われます。運動強度が上がると、どちらの利用量も増えていきますが、ある運動強度から急に糖の利用が増え脂肪の利用が減る運動強度があります。糖の利用が大きく増える事で乳酸がたくさんできるようになるのでこの運動強度の事を乳酸性作業閾値(LT:Lactate Threshold)と言います。
(参考:ダイエットには、LT辺りの運動が脂肪の利用が大きいので、適してそうです。)

右の下図は、運動強度と血中乳酸強度の関係を模式的に示した図です。


2. 登山に必要な体力について


登山に限らず、運動をするには持久力や筋力が必要です。持久力や筋力を客観的に見る指標としては、以下のものがあります。
《持久力》
一般的に持久力の指標として、最大酸素消費量(単位はmL/kg/分:体重1kg、1分間当たりの酸素消費量)が使われます。
ミトコンドリアでATPを作るには酸素が必要ですが、酸素はまず肺に取り込まれ、血液に溶け込み、心臓のポンプ作用によって筋肉に運ばれます。単位時間あたりにどれほど多くの酸素を筋肉に輸送でき、どれほど多くの酸素を利用できるかで、持久力が変わってきます。
高い心肺機能、濃い血液などで最大酸素消費量が大きいほど持久力は高くなり、急な山道でも長時間にわたって登り続けることができます。この持久力は15~16歳をピークに、それ以降、10歳年をとるごとに、10mL/kg/分ずつ低下していきます。

骨格筋の収縮能力である筋力は、収縮力、パワー、持久力に大別されます。
最大収縮力は、筋肉の横断面積に比例し、1平方cmあたり、2.5~3.5kgの筋力を発揮します。パワーは、単位時間あたりの筋肉の行う仕事量で、kg・m/分 で表されます。パワーを発揮する筋は速筋で、酸素をあまり消費しないで高い筋力を発揮することができますが、疲労しやすくなっています。
筋肉の持久力は、一定の仕事量の運動をどれほどの期間持続できるかで評価されます。持久力の高い筋肉は遅筋と呼ばれ赤い色をしています。持久力は骨格筋内に貯蓄されている、骨格筋の単位重量当たりのグリコーゲン量に依存します。筋の持久力を発揮するには酸素を必要とするので、筋に酸素を送る心肺機能の影響を受けます。


3. 体力の簡易的な測定方法について

最大酸素消費量や筋力は、簡易的に下記の方法で測定し、推定できます。
《最大酸素消費量》
中高年者の歩行テストの結果から、
心拍数=0.53*歩行速度+64
酸素消費量=0.18*歩行速度+1.6
その方法は、あらかじめ距離の分かったコースを3分間歩き、最後の1分間で歩いた距離を測定します。最後の1分間で歩いた距離を測定する理由は、歩き始めて1分間はクレアチンリン酸系、解糖系によってエネルギー産出が行われる為、酸素消費量がその運動強度に到達せず、2分目以降にならないと、酸素消費量の指標にならないためです。
体力測定時の歩き方は、
①肩の力を抜き、背筋を伸ばして、前方25m位を見ます。
②大股で歩き、踵から着地するようにします。
③手を大きく前後に振るようにすると、大股で早く歩けます。
④早く歩こうと気持ちが先立つと前かがみの姿勢になって、結局早く歩けないので注意します。
《筋力》
中高年と大学生の測定結果から、等尺性膝伸展筋力と、体重(kg)*歩行速度(m/秒)は相関関係があることが分かっています。
測定は、25mをヨーイドンで全速力歩行し、その時間から歩行速度を求めます。

体重*歩行速度(kg・m/s)  等尺性膝伸展筋力(N・m)
50               45
100               90
150              135
200              180
250              225
300              270
350              315
400              360


4.主観的運動強度(運動時のしんどさ)について [ボルグ指数]


主観的運動強度(運動時のしんどさ)について、心拍数を元に数値化した指標に “ボルグ指数” と呼ばれるものがあります。

ボルグ指数は、20歳の若者の1分間当たりの心拍数を基準に数値化していて、心拍数の1/10が点数に定められています。20歳なら最高心拍数は200拍/分で、この時のボルグ指数を20とし、以下の様に指数化しています。

ボルグ指数        感じ方
7,8          非常に楽である
9,10          かなり楽である
11,12         楽である
13,14         ややきつい
15,16         きつい
17,18         かなりきつい
19,20         非常にきつい

各年齢の1分間あたりの最高心拍数は、一般的に、220-年齢 で表されます。60歳なら最高心拍数は、220-60=160拍/分で、これを20歳の数値に換算してボルグ指数を求めます。
60歳の人の運動時の心拍数が150拍/分の時のボルグ指数は、安静時の心拍数を60拍/分(若年者と同じ)と仮定すれば、
(150-60)*(200-60)/(160-60)+60=186拍/分で、ボルグ指数は19になります。
つまり、20歳の若者にとって「きつい」状態は、60歳の人にとっては「非常にきつい」に相当することになります。
年齢X(歳)の人の運動時の心拍数をY(拍/分)とすると、それは、20歳の若年者では、
(Y-60)*(200-60)/[(220-X)-60]+60 に相当することになります。
一般的には、同じ運動でも、年齢が高いほど、きつく感じることになります。


5.登山で生じる疲労とその原因、対策について(その1)

登山で生じる主な疲労には、以下のものがあります。
①疲労物質の蓄積による疲労
乳酸を初めとする疲労物質が蓄積すると、疲労を感じるようになります。従って、乳酸の発生が急激に増える運動強度(LT)以下=マイペースで、ゆっくりと登ることが重要です。
マイペースの目安は、心拍数で設定できます。
目標心拍数 ≒ (220-年齢)× 0.75
これは、ボルグ指数でややきついに相当します。マイペースは、’ややきつい’以下の運動強度と言えます。
②下りで起こる疲労 – 筋の損傷
一般的に、消費されるエネルギーは、登りの30%程度と言われています。ところが、筋肉への負担は下りの方が大きくなります。登山では、太ももの全面にある筋(大腿四頭筋)が重要な働きをします。この筋は登る時には長さが縮みながら(短縮性収縮)力を発揮します。下り時には引き伸ばされながら(伸張性収縮)力を発揮します。短縮性収縮では、筋力の低下は小さく元に戻るのは速いですが、伸張性収縮では、筋力が大きく低下してしまい、数日たっても元に戻りません。また、下りで足が着地した時の衝撃は、体重の2倍以上になります。
登山の下りをシミュレートしたトレッドミルでの測定で、CPK(クレアチンリン酸キネーゼ)の増加が測定されています。CPKとは、筋肉の細胞が壊れたときに血液中に出てくる物質です。つまり、下りでは筋細胞がたくさん壊れると考えられます。これが、登山後の筋肉痛を引き起こします。対策は、着地衝撃が小さくなる様に下る、ゆっくりと、歩幅を小さくして下る、ストックを使う、ザックを軽くする、体重を軽くする、下り傾斜がゆるいコースを選ぶなどです。
③燃料切れによる疲労
筋肉を動かすエネルギーであるATPは、主にグリコーゲン(糖)と脂肪から作られますが、それらの体内での貯蔵量は、中程度の強度の運動で換算すると、グリコーゲンは 数時間分、脂肪は数日分で、グリコーゲンについては、登山の運動量に対して十分ではありません。また、脂肪は単独では使用できず、脂肪を使うにはグリコーゲンが必要です。その為、登山前・後や登山中にグリコーゲンを補給することが重要になります。さらに、脳のエネルギーは、ブドウ糖のみですので、ブドウ糖の枯渇は、運動能力、感覚能力や思考力などを低下させます。

UIAAの医療委員会での試算によると、成人が通常のペースで登山をするときのエネルギー消費量は、空身で6kcal/kg/時、20kgのザックを担いだ場合で9kcal/kg/時とされています。体重60kgの人が8時間の登山をすると、空身で2880kcal、20kgのリュックを担いでいれば4320kcalのエネルギーを消費することになります。このエネルギー消費量の内、グリコーゲンで生成されるのは、およそ半分~1/3位になります。このエネルギーを、元々筋肉や肝臓などの体内に蓄えれているグリコーゲンや、登山前に摂取したり、登山中に補給したグリコーゲンで余裕を持って賄える必要があります。こういう理由で、登山中の行動食は重要です。
疲労回復には、アミノ酸飲料(BCAA:側鎖アミノ酸)も効果があります。運動時に「疲れた」といった主観的疲労感を発生するのを中枢性疲労といいますが、側鎖アミノ酸を補給すると、この中枢性疲労を防ぐことが出来ます。また、高い強度の運動で生じる筋線維の微小な損傷を修復する事に使われます。


6.人体からの熱の放出について


運動をすると、汗をかいて体温を調整しますが、人体からの発熱と放熱の関係は、およそ以下のようになります。

一般的に人が1日に摂取する食糧には約1,900kcal~2,400kcal (およそ10MJ:1kcal=4.2kJなので、2,400*4.2≒10M)含まれています。
このエネルギーは平均の仕事率(パワー)としては、約100Wに相当します。[1Wは1秒間に1Jを使うパワー。1日=86,400秒なので、10,000,000(J)/86,400(秒)≒100(W)これが、人体のアイドリング分のパワーになります。
このパワーの内、心臓を動かすなどの運動に使われるのはごくわずかで、ほとんどが、最終的に熱として体外に排出されます。室温で普通にしている状態では、放射熱と伝導熱がほとんで、蒸発熱はわずかです。
しかし、登山などの運動をしている状態では、エネルギー消費量が増え、発熱量も増えます。人体の効率はだいたい25%位なので、運動で100W分の仕事をすると、アイドリング分が100W、運動の分が100W、人体の効率が
25%で発生するロス分の発熱が300W (100W/0.25 – 100W = 300W) になります。またアイドリング分の100Wも最終的には熱になって体外に排出されます。この熱の体外への放出は、放射熱や伝導熱では十分では無く、蒸発熱に頼ることになります。100Wの余分な仕事をした時にその発熱分を蒸発熱で排出するには、1時間当たりコップ1杯の水(0.16L)が必要です。(水1Lの蒸発熱は2.3*10の6乗Jなので、100W*3600秒/(2.3*10の6乗)=0.16L)


7.登山で生じる疲労とその原因、対策について(その2)

登山で生じる疲労には、オーバーヒートによるものもあります。
体温(脳温)が0.1℃上昇すると、1分間当たりの心拍数が5拍増加し、疲労の原因となります。また、熱疲労により体重の2%が脱水すると、持久能力は10%落ちてしまいます。血液中の水分量が減って血液が下がり、筋への燃料や酸素の供給がうまくできなくなるためです。脱水を放置したまま運動を続けると、体温が上昇し続け、熱射病を引き起こします。熱射病になると汗の出が止まる為、体温の上昇はさらに加速し運動の失調や意識の混濁が起こります。
対策としては、当然ですが、水分の補給が重要です。その水分補給ですが、スポーツドリンクの方が真水より良いと言われていますが、その理由は以下の通りです。
真水で補給すると、体液の浸透圧(塩分濃度)が低くなってしまい、浸透圧を下げる余分な水分を尿として腎臓から排出してしまいます。一方、体液と同じ食塩水のみを補給すると、なかなか腸管からの吸収が進みません。その理由は、食塩水の腸管への吸収は、まず、食塩水のナトリウムイオン(Na+)が、腸管細胞に存在する輸送体によって腸管から体内に吸収され、それによって生じる腸管細胞間の浸透圧勾配によって水が吸収されますが、その速度が非常に遅いからです。スポーツドリンクには、そこに、ブドウ糖が含まれていて、このブドウ糖の作用でこの輸送体が著しく活性化して、ナトリウムイオンの吸収が加速するので、真水なみの速度で水が吸収されます。また、摂取したブドウ糖はエネルギー源となります。これが、スポーツドリンクが良いと言われる理由です。スポーツドリンクを薄めて飲むのは、これらのメカニズムを正常に働かなくさせる可能性があり、あまり良くないと思われます。

8.体力をアップさせるトレーニングについて

比較的手軽にできる持久力向上のトレーニングに、インターバル速歩トレーニングがあります。

【持久性トレーニング】
①個人の最大酸素消費量を測定します。簡易的に測定する方法については、「4.体力の簡易的な測定方法」を参照下さい。
②最大酸素消費量の60~70%の運動を、30~60分/日、3~4日/週、5~6か月間行います。
これにより期待される効果は、最大酸素消費量が10~20%の上昇です。(10~20歳若返った体力)運動形態は、全身運動なら何でも良いです。(ウオーキング、ジョギング、テニス、水泳、登山など)

歩行運動でできる体力向上トレーニングに、インターバル速歩トレーニングがあります。その方法は、
①簡易体力測定の歩行テストで3分間の最大歩行距離を決定します。
②その60~70%の距離を3分間で歩いて、その時の主観的運動強度(「ややきつい」、または「きつい」)を体で覚えます。(速歩)
③3分間ずつ「速歩」と「ゆっくり歩き」を繰り返します。速歩合計が、15分/日、4日以上/週、速歩の週合計が60分以上を目標に歩きます。
なお、このトレーニングで筋力(膝伸展筋力)も同時にアップできます。

運動直後には筋血流が増加し、筋細胞表面にインシュリン感受性のブドウ糖輸送体が大量に発現し、ブドウ糖の取り込みが進むからです。また、筋肉内へのアミノ酸の取り込みも進み、タンパク質合成も加速され、筋肉増強が起こりやすいとされています。なお、成分だけを考えれば、牛乳コップ2杯分の摂取で効果があります。その場合は、糖質が少ないので一緒に甘いものを摂取するのが良いです。このトレーニングの後に、糖質やタンパク質のサプリメントを摂取すると、筋肉増強の効果があります。(少量を頻繁に摂取するのが効果的です。)
【筋力トレーニング】
ダンベル等を使ったトレーニングなどがありますが、詳しくは専門書をご覧下さい。

9.高山病について


個人差がありますが、標高が高いことの影響は、3000m位から出始めます。その理由について説明します。
赤血球中のヘモグロビンは酸素分圧に応じて酸素と結合する性質を有しており、酸素分圧が高い肺砲内で酸素と結合し、酸素分圧が低い末梢組織で酸素を遊離します。右図にヘモグロビンの酸素飽和度(ヘモグロビン全量の何%が酸素と結合しているか)と、高度・肺胞気酸素分圧の関係を示します。この図より、高度3000m位以上では酸素飽和度が急激に低下することが分かります。その為、体内が低酸素になり、息があがり、息苦しさを感じるようになります。

 

 

 

 

 

 

ところで、呼吸のコントロールは、平地では右図に示すように肺胞内(動脈血中)の二酸化炭素の分圧に依存して行われます。肺胞内(動脈中)の二酸化炭素分圧が上昇すると、その上昇程度に応じて呼吸気量が上昇します。平地では、二酸化炭素分圧が40mmHgになるように、呼吸がコントロールされています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これに対して、標高が高くなって酸素分圧が低くなり、それが60mmHg以下(高度で3000m相当)になると、指数関数的に呼吸気量が増えます。(右図参照)
このような呼吸になると、動脈中の二酸化炭素分圧の調整が無視され、酸素分圧を保つように呼吸が行われます。その結果、過換気になって、血中二酸化炭素分圧が低下します。この為、過呼吸症候群(他の先の血管が収縮してピリピリして、頭がフラフラして、目の前が真っ暗になるなど)を生じる可能性があります。
また、3000mの高度になると、ヘモグロビンの酸素飽和度は平地の80%になる為、最大酸素消費量は、平地の75%程度に低下し、きつく感じることになります。さらに、最大酸素消費量の60~70%の相対運動強度では、筋肉の血液中の乳酸が上昇して、その結果、強い息切れ、息苦しさを感じ、二酸化炭素の排泄による動脈血二酸化炭素分圧の低下が脳血管を収縮させ、それらは相乗して、頭痛、吐き気を引き起こします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 
平地に比べ高地では皮膚血管拡張反応が抑制されますが、発汗量の反応の感度は変わりません。高地では皮膚の血流が抑制されるので、汗を多くかいて体温調整を補うことになります。運動時には、下肢の筋肉組織に血液が移動して、血漿量が減少するため、高地環境では平地に比べ血液の血漿量の減少が大きくなります。 その為、汗をかきやすくなりますので、地に比べ、より多くの水分補給が必要になります。

このページの内容についてのご意見、ご感想はこちらまでお願いいたします。(sprinterbears@yahoo.co.jp)